夏休みの話題が多かったのですが、実は季節外れな時期に書いていました。今回は本当に夏休みに夏らしい映画。
「魅せられて」1996
トスカーナの映像に癒されたいと、公開当時映画館で観ました。しかし・・打ちのめされたようにみじめな気分で帰路についたのを覚えています。
当時18歳のリブ・タイラーに嫉妬して、憔悴しきったのです。
彼女の生命力あふれる若さと美しさ・・もてあます長い肢体・・トスカーナに芸術家の親戚が住んでいるという幸運・・・実際リブ・タイラーは父親が有名なロック・ミュージシャン(エアロスミスのヴォーカル)だし。
それがなぜ夏休みらしいかって・・?
まずは、ストーリーから。
ニューヨーク育ちの19歳のルーシーは、実の父親を探すためにトスカーナの叔母夫婦の家を訪れます。そこには自由で個性的な人間たちが集まっていて・・・平穏な日常に現れたルーシーに、皆がそわそわと色めきたち(今でいう萌えでしょうか)ます。そんなひと夏の物語・・。
1996年頃・・私は若くもなく年老いてもなく・・子供もなく仕事もなく・・何者でもなかった。そういう焦りや空しさがよけい嫉妬心をかきたてたのでしょう。
時が経ち、もう一度DVDを手にとってみる。
以前とは全く違う印象を受けて新鮮な心地よさに浸ってしまう。
まず以前は老け役であったのが悲しかったジェレミー・アイアンズ・・改めて見ると老けているのではなく病人役だからとわかり・・そしていまや彼の心理までが良くわかる。ルーシーが気になり・・「見ているだけで幸せだった・・」という思い。
確かに彼女の生命力溢れるオーラは見ているだけで元気になります。
これから花を咲かせる者と・・散っていく者。
その一瞬の魂のふれ合いが微笑ましくも哀しい。
そして義理の叔父にあたる彫刻家のイアン。無骨で偏屈そう・・と思っていたのだが、「ここの丘には芸術が根付いている・・」と、すべてを注いでトスカーナに移り住み、20年間黙々と作品を作り続けている。なんともセクシー・・。
その妻でありルーシーの叔母であるダイアナは、皆から信頼されていて、時折以前の美しさと情熱が現れるのだが・・長いトスカーナでの生活が何かを失わせてしまってもいる。彼女の一挙一動に共鳴してしまう。
シニード・キューザックという女優さんですが、なんとジェレミー・アイアンズの奥様らしい。意外なようで納得。
要するに、今の自分と近い年齢の人物に共鳴しているのですが・・・ベルナルド・ベルトリッチ監督の描く普遍的な性と人間関係を受け入れられる年齢になったということかもしれない。
ただ若ければいいということではないと思います。
まだ有名になる前のぽちゃぽちゃのレイチェル・ワイズが魅力的な役ででていますが・・40過ぎての今の彼女は本当に賢く可愛くまた美しい!
若さは確かにそれだけで素晴らしいけど、美しさは色々だとわかってくるのが良い意味でのエイジングかと。
若者よ・・だからこそ今を愛し、堪能せよ。
監督のメッセージはそんなところでしょうか。
心も体も体当たりできる人間関係があった最後の時代へのオマージュのようにも思えます。
挿入曲もしゃれていて、特にニーナ・シモンの「my baby just cares for me」は印象的です。
トスカーナの光は、もの哀しいくらいの方が心に沁みて・・・夏休みに過ぎ去った時を想い出すにはお奨めの一本です。
2013.8.3