この映画のフランス語の原題は L'HOMME DE CHEVETであり、おそらく「枕元の男」というような意味だと思われます。
しかし邦題はカルタヘナというコロンビアの港町名を使っています。聞きなれない街でしたが、世界遺産にも登録されているコロンビアでも有数の観光名所のようです。
その美しい海とスペイン統治時代の朽ちた街並みが魅惑的な港町で・・一人の疲れた中年男性が酔った足取りで一軒の家を訪ねます。
彼の名前はレオ(クリストファー・ランバート)・・元ボクシングの欧州チャンピオンですが、今は行くあてもなく職探しをしています。
彼の面接をしたのは、ベットで寝たきりの女性ミュリエル(ソフィー・マルソー)・・・事故で首から下が麻痺してしまい、彼女の介護人を探しています。
何とか職を得たレオですが・・慣れない介護の仕事とミュリエルの気難しさ・・レオ自身もアルコール依存症であり・・はらはらの始まりとなります。
しかし、彼女の世話をしているうちに、もともとは辛抱強く温かく・・優秀であったレオの本来の姿を取り戻していきます。
そんなレオの姿に、徐々に頑なな心が解きほぐされていくミュリエル。
事故以来初めて安心して心を許すということを思い出します。
そんな時に、ちょっとした事件があり、レオは介護の仕事に行けなくなり・・。
今も昔も上品な可愛らしさと宝石のように人を惑わす美しさを合わせ持つソフイー・マルソー。
その彼女の醜く歪んだ表情が、ベッドに縛られた女性の苦しみ悲しみ怒りを表していて胸を突かれます。
絶望という暗闇の中に射した一筋の光・・・それを失うことを恐れるあまり自ら絆を断ち切ってしまいます。
解雇されたレオの許してほしいという懇願に対して、「普通の女ならやり直す機会を与えられる。私は小さな魚の骨でも死んでしまう・・。」
プライドを捨てて、初めて自分の気持ちを吐露したミュリエル。
この孤独と愛、絶望と希望の交差する場面には、烈しく心が揺さぶられます。
まったく違う二人が、絶妙なカップルになるのですが・・その息の合った演技は私生活でも二人がパートナーでもあることを知り、ますます納得です。
(クリストファー・ランバートはダイアン・レインの旦那さんでもあったらしく・・ロジェ・バデム!?ブリジット・バルドーを奥さん、カトリーヌ・ドヌーブをパートナーにしていた監督ですが・・・並みに凄い男性かも。)
それはさておき、この映画は2009年に作られた日本未公開の映画ですが・・おそらく去年大ヒットした「最強のふたり」を意識してレンタル最新作となったと思われます。
「最強のふたり」も映画館上映中に観て、サントラも手に入れたくらい感動しましたが・・女性が主役ということもありカルタヘナの方が共鳴できたかもしれません。
ただカルタヘナはフィクションですし、男女の心理的な絆を中心に描いていますので、きれいすぎるかもしれませんね。
そういう面で、もう少し向き合ってみようと思われる方に、有名な二作品があります。
「潜水服は蝶の夢を見る」2007フランス・アメリカ
「海を飛ぶ夢」2004スペイン
前者はフランスのELLEの編集長であった男性の伝記であり、後者も実在の男性の手記をもとに作られています。
フランスを代表する俳優となったマチュー・アマルリックとスペインのこれまた代表する名優ハビエル・バルデムが、それぞれの主役を演じていています。
どちらも高く評価された作品ですので、お奨めしたいのですが・・・難しいテーマではあります。
時期を選んで観ていただくのがいいかと思います。
カルタヘナのラストは・・古いフランス映画のように余韻が残り・・・後をひきます。夏の終わりの夕暮れの気分に浸れ
る作品でした。 2013・8・21