女性の身につけるもの(いわゆるファッション)・・・服装だけでなく小物や髪形、化粧品などは、女性の生き方や心理状態を表現していると思います。
特にアクセサリーは、その女性の現在の心をそのまま表しているのでは・・と思えたのが、この映画です。
パリのアパルトメントで会計事務所を開いているウイリアム(ファブリス・ルキーニ)。ある日の夕方、突然見知らぬ女性(サンドリーヌ・ボネール)が訪ねてきます。
新規の客かと招き入れ話を聴きだすと・・・女性は非常に個人的な夫婦問題を話始めます。
唖然として戸惑うウイリアムですが・・・どうやら同じ階の精神科医と間違えられたらしい・・・しかし職業柄失礼にならぬよう対応をしているうちに次の予約を受けてしまうことに。
そして次の回も心を開いていく女性に本当の事が言えない。
とうとう真実に気づいた女性は憤慨しながらもアンナと名乗り、この奇妙なセラピーは当たり前のように続いていきます。
美しいが陰のあるアンナの悩みは、思ったより深く秘め事であり・・限界を感じるウイリアムですが・・その時はもう深くアンナに魅かれているのでした。
いつの間にかウイリアムが、同じ階の精神科医のセラピーを受けることになるのが、たまに飲む昼間のワインのように新鮮で・・・これは上質なコメディーだとわかります。
一方アンナですが・・・最初はコートやマフラー、ブーツで身も心もガチガチにガードしています。コートの下も決してセンスは悪くはないのですが・・・地味でシックな洋服ばかり。首元の小さなネックレスが見え隠れします。
セラピーの回を重ねるごとに、服装も軽く明るく変化していき・・鎖骨のくぼみにおさまるネックレスが小さく光輝きます。まるで彼女の心を代弁しているかのように・・。
そしていつの間にか印象的なピアスが増えています。
女性は元気になるとアクセサリーが増えるんだな・・・と、この映画を最初に観た6年ほど前に思ったのですが、今回見直して、それは違ったのです。
自信を取り戻し本人が輝く女性になったラストでは・・首からネックレスは消え去り・・笑顔と美しい鎖骨と印象的なピアスと、お気に入りの華やかなドレスと白いパンプス。
ウイリアムも子供の頃夢見ていた冒険家になります。服装はそのまま同じ背広とネクタイですけどね。
この映画は、日本でも人気の高いパトリス・ルコント監督の2004年度の作品です。彼の作品は有名ですが、私もすべてを観ているわけではありません。一見ダンディで素敵な紳士の隠れた子供心(幼稚ともとれる)や不器用な恋心(未成熟ともとれる)をエスプリの効いた脚本でセンスよく描く・・・そういうイメージがあります。
音楽の使い方も独特で、初期の作品である「タンゴ」(1993年)のサントラは当時すぐ購入しました。映画の内容は・・・衝撃的なほど日本人には遠い世界の感覚の恋愛映画?でしたが・・・タンゴの旋律があまりによく合っていて感銘しました。
「親密すぎる・・」の音楽も印象的で、最初から最後までサスペンスメロドラマのような旋律が流れ・・・常にドキドキ不安になります。ラストはハッピーエンドにかかわらず不安な気持ちにさせられるのは、この旋律のせいだったのか・・と、これまたあらためて衝撃的です。
ルコント的には、男女関係は常に先の読めないサスペンスドラマだというメッセージかもしれませんね。
一筋縄ではいかないフランス的恋愛映画がクセになりたい人にはおススメです。
ただし人生変わっても責任はとりかねます。
2013.9・29