クロワッサンで朝食を

Une Estonienne a' Paris

 

 早春のパリ旅行がほろ苦い思い出となった顛末を以前綴りましたが(ブログ初めてのパリ編)・・・、そんな私がしっくり共鳴して、じんわり幸せになれる映画に出会えました。

 

 

 雪の積もったエストニア郊外の町を歩く若くない女性。

 

酔っ払った中年男性に言い寄られ、うんざりしながらも見捨てはしない・・・どうも別れた旦那らしい。アンヌというその女性は、今はひとり痴呆の母親の世話をして暮らしています。

 

 そして突然母親が亡くなり・・・呆然としている所へ以前の職場から仕事の依頼がきます。パリに住むエストニアの老女の世話という内容に悩みますが、結局引き受けることに。

 

 なぜなら、パリは彼女の学生時代の夢だったから。

 

 

 パリの空港でアンヌを出迎えたのは、ステファンというカフェの経営者。彼によると老女フリーダ(ジャンヌ・モロー)は気難しいようで・・・案の定、朝食を運んだアンヌを早速解雇します。

 

 ステファンのカフェに仕打ちを訴えに行くアンヌですが、ステファンの「プロらしく頑張れるね。」と、叱ったり哀願したりする姿に折れて、戻ることにします。

 

 朝食はクロワッサンと紅茶だというステファンのアドヴァイスに従い、スーパーで買ったクロワッサンに激怒するフリーダ。

「パン屋で買った美味しいクロワッサンと美味しい紅茶で一日は始まるのよ!」

 

 

 それでも淡々と根気よく振舞うアンヌに、フリーダは徐々に心を開き頼っていきます。

 彼女とステファンの複雑な愛憎関係や、孤独な人生に触れるにつれ心配するアンヌでしたが、あまりに傲慢なフリーダの態度についに限界がきて、荷物をまとめて飛び出すのでした。

 

 

 3人のバランスの悪い関係が、最後には良いかげんに収まり・・・ハッピーエンドというよりグッドエンドという感じ。

 それぞれが、少しだけお互いに愛情を譲り合い、完璧を求めない。人生後半になった者同士の出来る範囲での信頼関係。

 

 これが、すごく大事なことのように思える。  

 

 

 カリカリするほど愛情が枯れきっていたアンヌとステファン。最後は二人共見違えるほど生き生きと魅力的に。

 

 特にアンヌは、ペタンコブーツからパンプス、ヒールの高いサンダル・・・気崩れたコートからバーバリーのトレンチコートと、どんどん変化して最後は道行く男性を振り返らせるほどに!

 

 そんなアンヌは、最初は市内観光に行く時、地下鉄からうまく降りれなかったり、(扉を手動で開けるのでタイミングが難しい)・・・やっと到着したエッフェル塔は楽しそうな観光客で溢れかえっていて、ひとり疎外感を感じながら立ち去ったり・・・。

 

 

 しかし終盤、明け方の誰もいないエッフェル塔の前で、自分をとり戻したアンヌがひとり満足げにクロワッサンをかじる姿に本当に感動する。

 

どうせなら邦題「エッフェル塔でクロワッサンを」にすれば?

 

 

 エストニアは室内では、靴を脱ぎ室内ばきに履き変えるようです。そういうお国柄もあるからか・・・日本の中年女性が共鳴しやすいように思う。

 

 

 古いシャンソンのカセットテープ(まず今は見ない)を、大事そうに取り出してカセットデッキ(これも見ない)に入れて聴く。

 

 このシーンだけで、アンヌが若い頃パリに憧れていたことが分かる素晴らしいシーンがある。

 私も同じだったから。ただしカンツオーネだったけどね。

 きっと、そうやって憧れていた人、いるはず。

 

 最後に、ジャンヌ・モロー。85歳には見えませぬ。

なんと誇り高く・・・可愛らしいこと!まさにフランスの至宝。

 そして一貫して映像と音楽も印象的でした。

 

 

ちょっと・・・いやかなり疲れている貴方にこそお薦めです。

                       (2014.6.14)

                   

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